僕の国では、人はしょっちゅう「ガス抜き」をします。はたから見ればそれは単に文句を言ったり、怒りをぶちまけたり、悪態をついたりしているだけのようですが、これは文化の一つと言えます。会社でも、上司に対しても、大きな声で文句を言うことは結構あります。
日本で暮らしていると、感情をぶちまけている人を見ることは多くありませんが、絶対にどこかでしているはずです。見えない所でやっているのか、僕たちとは違う方法でやっているのでしょうか?
腹の立つことがあった時、自分の思い通りにならない時、いらいらしている時など、そのことを声に出して言い、自分はどう思うかということを言う傾向が強いのです。
ほとんどの場合、仲の良い友達や、家族に話しますが、時々、まったく知らない人に言うこともあります。
「ガス抜き」は、ある種のセラピーと言えます。時々怒りをぶちまけ、不満を思い切り吐き出すようにしたほうが良いと、ドクターも言っています。そうしなければ、負の感情がどんどん積み重なって瓶詰状態でパンパンになってしまい、爆発してしまうからです。
もちろん、何でもかんでも文句を言ったり、否定的なことばかり言うのとは違います。そういう人もいますよね。いつもいつも不満ばかり言っている人。いつも不満や文句ばかり聞かされる友達や家族はたまったものではありません。だんだん離れていってしまいます。
日本ではほとんど遭遇しませんが、僕の国では、バーなどで飲んでいる時に生活や社会の不満を言い出し、隣にいる見ず知らずの人に文句を言ったり、絡んだりして、それが喧嘩に発展して警察沙汰になることなどしょっちゅうです。
ドクターによると、負の感情が積み重なってどんどんネガティブスパイラルにはまっていくのを防ぐ為に、なるべく早くその気持ちを吐き出すことだと言います。でも、どこで、いつ、誰に対して吐き出すのかを間違えてはいけません。
文句や不満を吐き出す時にも、建設的な方法で言うようにすると、それを聞いている友人や家族との距離はさらに縮まり、信頼が増し、精神的な支えとなります。信頼している人に話せば、相手も親身になって自分の考えを言ってくれるでしょう。
ストレスを軽減するためにも、「ガス抜き」は絶対に必要です。怒りや不満を押し殺して、自分の中に詰め込んでいくと、それは時間とともにどんどん蓄積し、その結果、高血圧や高血糖などの健康上の問題を引き起こす可能性があります。 そして、副腎疲労をはじめ、様々な病気や障害を引き起こしてしまいます。
これが、僕が副腎疲労になってしまった原因の一つだと思います。
僕が会社務めをしていた頃、あまり深く考えずに、思った事、感じた事なんでも口に出していました。やりたい事、欲しい物、やりたくない事、できない事、違うと思った事、その通りだと思った事、とにかく何でも言っていたし、何を言おうと何をしようと自分が責任を取れば良いんだと思っていました。
しかし会社を立ち上げ経営者となった瞬間から、あまりにも多くの人、多くの事に対して責任を持たなければならなくなりました。クライアント企業、従業員、講師、サービス、商品、とにかく自分の視界に入るもの、自分の耳に入る話、何もかも自分の責任になってしまったのです。
毎日毎日、善と悪のバランス、利益と損害のバランスを考え、その結果、自分の意見や不満、怒りは抑え込んでおいたほうが問題は少なく済むだろうと考えるようになっていったのです。
こんな講師、今すぐ首にしたい!と思っても、その代わりの講師がすぐにいるわけではないなく、生徒さんやクライアントに迷惑が掛かる、会社としての信用に関わる、などと考えると、ここは自分が我慢して怒りを抑え、このままにしておいたほうが丸く収まる、と思った事が何度もありました。
例えて言うなら、自分の周りに腐った芋が転がっていると、それを処分せずに飲み込むようにしてしまったのです。あまりにも多くの腐った芋を飲みこんできた僕の体は、腐った芋だらけになり、それが充満して爆発し、腐った芋がそこら中に飛び散ってもうどうしようもない状態になってしまったわけです。
ドクターにも言われました。
負の感情と言うのは、まるで何かに脅かされているかのように、人にダメージを与え、気分を悪くするのです。怒り、心配、不安、罪悪感など、あらゆる種類の負の感情です。これらの負の感情はストレスとして体に記録され、それが一連のストレス反応を引き起こします。
ストレスは、体を「戦うか逃げるか」の状態にするために準備をし、体内システムにコルチゾールを放出するように副腎に促します。
その負の感情が繰り返し起き、負の状態が続くと、ますますコルチゾールが必要とされ、ずーっと出し続けます。この状況が副腎を疲弊させ、副腎疲労へとつながっていくのです。
すでに副腎疲労になってしまっている人が、否定的な思考になっていると、副腎疲労をますます悪化させる可能性があると言います。
否定的思考を続けると、身体的、精神的および感情的な面で、さまざまな症状を引き起こしてしまいます。
「何をやっても良くならない」「もう治らないのではないか」などと、否定的な気持ちで毎日過ごしていると、それが慢性的なストレスをもたらし、副腎疲労を長引かせる可能性があるのです。
というわけで、否定的な考えや負の感情が沸き上がってきた時には、それを表し、対処する方法を見出すことが重要なのです。それが上手な「ガス抜き」です。
自分のことを大切にしてくれる人、理解してくれている人、そしていつも支えてくれている人に、自分の気持ちを吐き出し、表現し、解決策を一緒に考えましょう。
こうしたコミュニケーションで人とのつながりを持つことは誰にとっても必要なことで、それが無いと身体面でも精神面でも健康問題を引き起こす可能性があるのです。
健全で建設的な「ガス抜き」方法を見つけることができれば、これは体を癒すための効果的なプロセスになります。
「ガス抜き」は、自分にとって良いという一方的なやり方ではダメです。そんなやり方は、相手を、また人間関係を壊してしまうことになりかねません。そこで、ドクターからもらった健全で建設的な「ガス抜き」のヒントをいくつか紹介します。
タイムアウト
自分でもコントロールできないような「怒り」が込み上げてきたら、何か言ったりやったりする前に、一旦タイムアウトを取りましょう。
タイムアウトを取らずに、衝動に任せて怒りをぶちまけると、後で大反省と後悔の念にさいなまれることがよくあります。タイムアウトを取って、少し落ち着いて、それでもまだ怒りが渦巻いていたら、友達や家族にやはりぶちまけたいと思うでしょうが、これは建設的とは言えません。
まずは、興奮が収まるまではタイムアウト、時間はいくらかかっても気にすることはありません。落ち着くまで休んだら、はるかに気持ちは整理しやすく、論理的に考えることができるようになるはずです。
「ガス」は最小限に
「ガス抜き」の問題は、それがいつまでも続く恐れもある、という事です。何か一つのことについて文句を言うと、人はそれを他のことにも結び付けて話を大きくしてしまったり、いつまでも何度も蒸し返したりして、何かについて文句を言うようになったら、人々はそれを他の問題に関連付け、何度も何度も繰り返し、一つの不満がいつまでもどんどんつながって大きくなり、終わらなくなってしまうことがあります。
「ガス抜き」をする場合は、自分でまずその不満の理由を整理して、最小限にしてから、話す相手を選んでやることです。
個人的に受け取らないようにする
なにか嫌な事を言われたりされたりしてむしゃくしゃしてしまうのは、それを個人的なこととして受け取ってしまうからなのです。
自分に対する攻撃だと腹を立てる前に、なぜそんな事になったのか、起こった理由や背景について考えてみるようにします。
そうすれば、自分や相手ではなく、その状況そのものが問題なのではないか、と思えるようになります。
書き留める
起きた事、そして自分が思った事を書き留めておくと、頭の中でそれらが整理され、明確になります。問題が何なのかを冷静に見ることができるようになります。そうすることで衝動的にならずに、行動を遅らせ、事態を悪化させることを防ぐことができます。
他人にあたらない
どんなに腹が立っても、他の人に当たってはいけません。誰かのせいにしてもいけません。身体的にはもちろん、言葉で攻撃することもダメです。名前を挙げて批判したり、ましてや意地悪をしたりすることは、自分の周りの人間関係を壊してしまい、それが回り回って自分のストレスになります。
解決策を見つける
「ガス抜き」をしても、そこで問題の解決策を見出すことをしなければ、今後にあまり役に立ちません。また同じ状況に再び遭遇し、同じ怒りと不満を経験することになります。
「ガス抜き」をしたら、必ずその問題について考える時間を作ります。
その問題は何度も起きているかどうか?また同じことが起きるのを避けるためにはどうすれば良いか。避けられない問題であれば、次に起きた時にはどう対応するべきか。
人が迷惑なことをするのを止めることはできませんが、自分がそれに対してどう反応するかは、あらかじめ考えて準備しておくことができるのです。
副腎疲労と向き合うという事は、食事や働き方、人づきあいなど、生活の様々な面を見直していく作業ですが、気持ちの持ちよう、考え方、物事の捉え方などもじっくり考え、修正したり、ガラリと変えたりする必要があります。