歯の矯正でこんなことになろうとは…2011年

実は僕は物心ついた頃から、歯の矯正をしたいとずーっと思っていました。当時、親に言ってみたものの聞いてはもらえませんでした。“すきっ歯”なんです。皆さんご存じかと思いますが、北米では、“歯が命”っていう位、歯並びが大事なんです。だからいつか矯正したいってずーっと思って、とうとう40代になってしまっていたんですね。しかも日本に住んでいようとは、まったく想定外のことでした。

teethsmile

日本でビジネスも軌道に乗り、自分で稼いだお金で矯正できるようになったのは良いのですが、仕事は忙しいし、人前で結構しゃべることも多く、なかなかタイミングがなかったのと、歯科医とはちゃんとコミュニケーションがとれないと困るので、日本の歯医者ではちょっと不安で踏ん切りがつきませんでした。だって、どんな感じにしたいとか細かいニュアンスを伝えたいですし、歯科医の説明もしっかり理解したいし、そういうセンシティブなことはやはり母国語でやりとりしたいですよね。

今から8年程前、(まだ副腎疲労の症状は全然出ていませんでした)休暇でハワイに行った時、何となく見ていたテレビで、新しい歯列矯正具のCMが流れてきました。従来のワイヤーを歯につけるタイプではなく、透明の樹脂製のマウスピースで、コンピューターで歯並びをチェックし、一定の期間ごとに新しいものに取り変えながら歯列を整えていくという最新テクノロジーのものです。日本の矯正歯科でも、今はこの方法を採用している所も増えてきているようですが、当時はあまりありませんでした。

mouthpiece

マウスピースタイプの矯正に魅かれた理由は、何と言っても取り外し自由ということ。食事をする時には外せるし、僕はセミナーなどで講師を務めることが多いので、ワイヤーを付けてしまうと見た目だけでなく、しゃべりにくくなったり、発音が変になったりすると困るなと思ってました。だから取り外し自由のマウスピース矯正を知った時には、これだ!と思い、とにかくそのCMを流していた歯科クリニックを訪ねてみることにしました。

カウンセリングの結果、矯正の期間は1年で、4~6週間に一度ハワイの歯科クリニックに来なければならない、というものでしたが、思っていたよりずっと短い期間で、ハワイにもちょくちょく行けると思うと、なんだかそれもいいかも…思い、思い切ってやることにしました。矯正の費用の上に、航空券とホテル代…んーーー、でも長年の希望だったし、やると決めました。

dental

本当に真面目にやりました。外すのは食事の時と、人前でしゃべる時だけ。それ以外はずっとマウスピースを付けていました。トンボ返りでハワイを往復し、その都度新しいマウスピースをもらい、それを1年間続けた結果、僕の“すきっ歯”はきれいに揃っていきました。

最後のハワイ歯科訪問でマウスピースを外し、しばらくは元に戻らないようにするためのリテイナーを装着しなければならないのですが、僕は子供の頃からの願望がやっと叶い、40代にしてやり遂げた達成感で小躍りしたい気持ちでした。

でもその直後から体に異変が起き始めたのです。歯科医からホテルへの帰り道で、道路を走るバスやトラックのエンジン音やブレーキ音がものすごく頭に響き、今まで感じたことがない位、音に対して過剰に反応してしまい、思わず耳を覆ってしまうほど、非常に不快感を覚えました。

さらに、部屋のバルコニーからダイヤモンドヘッドを眺めた時、うまく言葉で言い表せないのですが、視界がなにか変になった感じがありました。今まで横を向けば見えていた横のものが、横を向いてもすぐに見えない、少し遅れて視界に入ってくるような変な感じでした。でもその時はちょっと疲れているのかな、という位に考えてあまり深刻にとらえてはいませんでした。

diamondhead

翌日には日本に戻り、いつものように朝ジムに行き、ランニングマシンでジョギングをしていた時の事です。急にグラグラとめまいがして、息も絶え絶えで倒れ込んでしまったのです。毎日ジムに通っていて、同じエクササイズをやっていて、こんなことは初めてでした。

その時をきっかけに、おかしな事が続けて起きました。視界が狭まった感じで周辺が見えなくなり、距離感をつかみにくくなってしまいました。文字や記号を見ても、もちろん見えてはいるんだけど、脳がそれと認識するまでにほんの少しの時間差があるような感覚。遠くを眺めていると、風景がぐるりと曲がるような感じ。

じっくり考えること、集中することがつらくなり、まるで頭が何かに挟まれて、ジワリジワリと締め付けられているような感じに襲われました。

どう考えても歯の矯正が原因だと思い、ハワイの歯科医に連絡し症状を伝えたのですが、当然と言えば当然なんだけど、返事は「矯正が原因とは考えられない。今までそのような例はない」というものでした。気の毒に思ってはくれたようですが、そこは訴訟社会のアメリカ、自分の治療が不調の原因だと認めるわけがないですよね。僕はその後もインターネットで、歯の矯正と不定愁訴についてリサーチを続けました。すると同じような経験を持つ人が思いのほかたくさんいることがわかりました。

jaw

40数年間定着してきた顎や歯の形状を、1年という短い期間で急激に変えたことで、頭部全体の骨格に影響を与え、それが体に対して大きなストレスとひずみを生じさせてしまったのだという結論に達しました。

マウスピースタイプではなく普通のワイヤータイプなら大丈夫だったのか、もっと若い頃にやっていれば大丈夫だったのか、まったくわかりませんが、歯の矯正がきっかけで、長年均衡を保ってきた体の構造が崩れたのは確かです。目や耳、体のバランス、歩行、さらには思考や気分まで変わってしまったのです。44歳の誕生日を目前に起きたこれらの不調は、その後も僕をずっと悩ますことになりました。10年経った今、改善してきた部分もありますが、まだ視界や距離感が完全に元に戻ってはいません。

自分の決断で、多くの費用と時間をかけ、ワクワクしながら踏み切った40代での歯の矯正が、僕の体にとってこれほどまでに強烈なストレスとなってしまったのでした。副腎疲労を引き起こした数々のストレスの中でも、このことは非常に大きなストレスイベントであることは疑いようがありません。長年の夢だったことが、僕の人生の悪夢になろうとは…。